八段昇段に求められる具体的要件往復書簡

 

第一便 ルイ・ヨランダ剣士へ

寒中お見舞いもうしあげます。

今年剣道時代の2月号特集で「合気」につて各剣士が語っていますが,稍々解りにくいので少し考えてみました。

と言うのも、将来八・七段を受けようとする剣士らは全日本剣道連盟が求めて

いる要件を満たすべく試行錯誤を繰り返しながら稽古を繰り返しているのが現状と捉えているからです。因みに八段剣士からよく言われるのは闇雲に打ち掛かっていくのではなく「合気」で対峙しなさいと言う事があります。

したがって、八段を受けようとする剣士への説明を以下の様に考えてみました。いろいろとご意見があろうかとぞんじますが取敢えずお送りします。

因みに「合気という語」単独で語られている書物で拝見したのは中村民雄著、剣道事典だけでした。全剣連関係書物には無く、何故合気語のみが独り歩きしたのか判然としないのである。

 

 

--合気・合気を外す--

高段剣士となれば六段まで培ってきた勝ち負け(競技)の世界から、相手の心、観衆の心を打つ技、あるいは風格・品位がにじみ出る態度、無駄打ちのない動作すなわち(八段授与要件=著者曰く、「修養の世界」)を目指して修練を積み重ねることが必要となる。すなわち合気と合気を外す修錬が必要である。合気とは中村によれば「相手と同じ対々の気」になることである。したがって、よりよい心技体を修練させて頂きける相手剣士に対し尊敬・感謝の念を抱きながら礼、蹲踞、立ち上がり、重々しく構えなくてはならない。その上で合気を外すための修錬をすることが重要となる。この点に関して北辰一刀流12ケ条(年不詳)の松風之事に、「敵弱カラン所ヲ強ク敵晴眼ナレハ下段二シテ拳下二シテ責、敵下段ナレハ晴眼二シテ上太刀二抑ルト云うヤウニ相気ヲ外して(傍下)勝有べシ」と説明している。(剣道事典 中村民雄)

また、高野佐三郎著「剣道172頁」にも合気を外すことの重要性が語られている。すなわち、敵強く荒々しく懸かり来るに、我も強く荒々しく立向へば、実に対する実を以ってしようき勝ちをうる事難し。敵弱く攻め来る時、我弱く対するも又同じ。恰も石と石を打ち合わせ、綿と綿とを衝き合う如く、相打ちとなりて勝ちを得る能はざるべし、 敵強く来れば弱く応じ、弱く出連れば強く対し晴眼にてくれば下段にして拳の下より攻め、下段にてくれば晴眼にて上より太刀を押へるというように、合気を外して闘うを肝要とす。

 

しかるに、先に示した如く平成の多くの八段剣士は「合気」で稽古することを推奨する。合気で行うと相手にも自分にも気持ちの良い稽古が出来ると言うのが主な推奨の理由と考えられる。したがって八段剣士らは合気を外す稽古は良しとしない傾向がある。高野佐三郎剣士が示唆する「石と石」「綿と綿」の如く合気(対々)稽古では期待される心技体とも体得することはできないと考えられるのである。

高段剣士を目指す剣士への指導・説明において、合気語説明は迷路に入り込む恐れや誤解を招きやすいことから「気当たり」という語を用いると理解し易いのではないかと考えた。

気当たりとは立ち合いにおいて相手に充実した気勢(有声、無声を含む)を伝え、相手の様子や反応を読み取ることです。分かり易く言えば隙あれば打つぞ!とテレパシー(Telepathy )を送ることにより相手に居つき状態や緊張感をもたせ、気後れさせることです。その上で竹刀捌きや体捌きにより更に打てる条件を作りだすこと、と指導・説明すると理解しゃすいものと考えています。

相手がその気当たりに居付けばすかさず打ち込みます。気後れ不十分の場合は、竹刀捌きや体捌きにより相手の心を動かし打てる条件を作りだす稽古を薦めています。打突直前では相手の様子や反応を正確に読み取ることは言うまでもなく大切です。むやみに自分の打ち間でない所から技を出すことは減点対象動作となるものと考えています。

 

返信

恵土先生へ

丁度良いタイミングで先生のアドバイスを頂きました。私を含めオランダの弟子達が八段挑戦しています。私は弟子と稽古している時、合気で対応していますが私は彼らに負けになる時が多いと感じています。彼らは私より若いし、動きも早いからです。やはり、高野先生が示唆する点を考慮しながら昇段を受けるべきではないかと悩んでいます。今度先生と会う時、是非いろいろと相談したいと思います。有難うございました。ルイ

 

第二便 ルイ・ヨランダ剣士へ

その後、お元気に稽古や生活に張りを以って活動しているものと拝察しています。

ところで、前回八段受験に当たり大切な練習内容として「気当たり」が大切であることを連絡しましたが、相手を気後れ状態にするためには、打たれるかもしれないと感じさせるために、充実した気勢、気当たりを身に付けることが必要です。その方法の一つとして「掛かり稽古的打ち込み練習」で体に捌き、切れ、鋭さを養うことを推奨します。

 

返信 恵土先生

ご連絡有難うございました。先生のお考えと全く同感です。実は昨年からアムス無声堂道場で15分間くらい打ち間からの打ち込み稽古をしています。

具体的には①打ち間から面三回打ち込みます。次いで②打ち間から面二回打ち込みます。打ち間で構え終えたところで、元立ちは面を打ち込みます。それに対して相面で対応します。相手を代えて三回繰り返す。③打ち間から面二回打ち込みます。打ち間で構え終えたところで、元立ちは面を打ち込みます。それに対して面すり上げ面で対応します。相手を代えて三回繰り返す。④打ち間から面二回打ち込みます。

打ち間で構え終えたところで、元立ちは面を打ち込みます。それに対して面返し胴で対応します。相手を代えて三回繰り返す。⑤以下同様に面打ち込みに対して出小手で対応します。相手を代えて三回繰り返す。⑥小手打ち込みに対して小手面で対応します。相手を代えて三回繰り返す。

 

以上で結構息が上がります。これは、技の稽古にもなるし廻り稽古方式でやるので毎回違う相手とやることになり、間合い、スピード等違うので相手を良く見ないと、成功しない稽古のやり方です。ルイ稽古方式(恵土命名)と名付けて実施していますが、結構効果的な方法と考えています。何時もご指導頂いている茨城の飯島章先生が来るとき(三月)見て頂き意見を聞こうと考えています。宜しくお願いします。ルイ

 

第三便 ルイ・ヨランダ剣士へ

ご返信ありがとう。そうですか、既に取り掛かっているとの事で良かったです。

高段剣士の昇段審査で相手に「気後れ」させる為には、気当たり・気勢・気合を以って、相手に打たれると強く感じさせることが最も大切と考えています。掛かり稽古的打ち込み練習によって、体の捌き、切れ、鋭さを身に付け、稽古時を含め審査では内面に溜めて立ち会うことにより、相手は気後れするものと捉え居ています。引き続きルイ方式更に取り組んでください。           以上 恵土